「小児保健研究」2005年64巻第2号掲載
ベアーズデイサービスセンター(病児保育)の7年間の検討 −病児保育の問題点について−
谷本弘子、 谷本 要
T.はじめに
病児保育は乳幼児健康支援一時預かり事業の一つとして、国の少子化対策の中で推進されている。しかし実施施設の数は計画通りには増えないのが現状で、平成14年度で251カ所と新エンゼルプランの目標を大きく下まわっている 1 )。その原因に利用者の季節的変動が大きいことによる運営の難しさや、病児保育の認知度の不足などが挙げられる2 )。ベアーズデイサービスセンターでは病児保育を始めて7年が経過し、この間の利用状況をまとめることで病児保育の問題点などを検討し、今後の病児保育の課題について考察した。
U.対照と方法
1.ベアーズデイサービスセンターの概要
当施設は平成9年4月に開設した病児保育施設である。設立主体は社会福祉法人で、同じ社会福祉法人設立の認可保育園である保育園ベアーズ(生後6週〜就学前、定員120名)と、小児科医院の谷本こどもクリニックともに隣接している。利用者の定員は6名で、小学校低学年までを利用対象としている。職員は3名で、内訳は看護師1名、保育士2名である。医療としては谷本こどもクリニックの小児科医2名が責任を持ち、病後児、病児とも受け入れている。開所時間は平日が朝8時半から午後5時半、土曜日は朝8時半から午後3時としている。開設時に乳幼児健康支援一時預かり事業として米子市(0〜4歳人口7,328人)から委託を受け、その後、平成12年に西伯町(同316人)、日吉津村(同157人)淀江町(同312人)と、平成13年に会見町(同165人)、溝口町(同146人)と委託契約を結んでいる。
食事とおやつの調理は保育園ベアーズの調理室に委託し、利用者の年齢、病状に合わせ調理を行っている。独立した病児室が4部屋あり、病気の相互感染を防ぐ事と、病状や年齢に適した看護することを目的に部屋割りをしている(図1)。疾患数が4つ以上ある日は、病状、既往歴、予防接種歴などを考慮し、相互感染防ぐように部屋割りをしている。水痘、麻疹など感染症も制限なく受け入れている。各部屋とも5〜6人利用できる広さを持っているので、4部屋に部屋割りができるときは定員以上に利用者を受け入れている。予約制はとっていない。それぞれの部屋に職員1〜2名を配置するので、3〜4部屋使用時は常勤の職員では不足になる。この時は保育園あるいは小児科医院から応援を出す。
2.調査対照及び調査資料
平成9年4月から平成16年3月までの期間の、当施設の利用状況について調査した。
初回の聞き取り時の利用者情報(氏名、生年月日、住所、家族構成、保護者の連絡先など)と日報(利用者の氏名、疾患名、症状と、利用部屋数および必要職員数を記載)をもとに集計した。
V.結果
1.利用者の状況
7年間に延べ5809人の利用があった。H14年度以後は年度当たり1000人を超える延べ利用者数となった。一日平均利用者数はH13年度から3.0を超えた(図2)。定員数に対する稼働率としてみると、H13年度から50%、H14年度から60%を超えた。年齢では1歳が最も多く、延べ人数全体の1/3以上を占めた(図3)。利用者の疾患は大半が感染症で、呼吸器感染症が最も多かった。水痘(延べ320人)、流行性耳下腺炎(延べ302人)、インフルエンザ(延べ199人)麻疹(延べ2人)などの学校伝染病もあった。感染症以外には熱傷、裂傷、骨折などがあった。
7年間の利用者実数は612人で、調査期間中、1人平均9.49日利用していた。1回の病気で、引き続き利用する日数は平均して、1.45日であった。利用開始時年齢は1歳が196人(32%)と最も多かった。利用初年度以降も利用している利用者の年度当たり平均利用日数の経過を図4に示した。H9年度〜H14年度のそれぞれの新規利用者毎に経過を示した。いずれの年度の新規利用者も、3年目以降は利用回数が減っていく傾向が見られた。
利用者を世帯毎に集計すると7年間で455世帯の利用があった。家族構成で分類した結果を表1に示した。
2.利用者数の変動と併設施設の職員との連携
一日当たりの利用者数(H13年度〜H15年度の開設日862日の内訳)を図5に示した。利用者0の日が10%近くある一方、定員6を超える日が29%あった。月別の延べ利用者数(H9年度〜H15年度)を図6に示した。月別にみると、8月が最も少なく、12月、2月、3月が多かった。年度毎にみると初年度だけは開設当初の4月、5月が最も利用者が少なかったが、それ以降はどの年度も7月か8月が少なかった。最も多い月は、各年度とも12月、2月、3月のいずれかであった。曜日別では、土曜日の利用者が少なく、他の曜日の1/3程度であった。一日当たりの利用部屋数(H13年度〜H15年度の開設日862日の内訳)を図7に示した。4部屋利用する日が最も多かった。一日当たりの必要職員数(H13年度〜H15年度で利用者があった779日の内訳)を図8に示した。常勤の3人を超えた職員数が必要な日が多かった。
3.利用者の看護
利用者は、疾患名と病状を把握するために原則として入所前に小児科医院を受診した。ただし、連続の利用で、病状が安定している場合は直接入所した。入所後の病状の把握のために、図9に示した「看護保育日誌」を担当の看護師あるいは保育士が記録した。「看護保育日誌」には一時間単位で記載した。体温、症状、薬の内服状況、処置の内容などと経口摂取の内容と量、排便、排尿、嘔吐などの排泄の性状と量を記載した。病状の変化があるときは、看護師が医師に連絡をとった。利用者の看護の目標としては@病状を正確に把握するA充分な経口摂取がとれるようにするB利用者が安静を保ちながらかつ楽しく過ごせるようにするの3点を掲げた。
@については、「看護保育日誌」を記録することで正確な病状の把握に努めた。Aについては、利用者それぞれの年齢と病状に合った調理をおこなった。食欲がなく食事が進まないときには、別のメニューを調理し直した。また、様々な飲料を用意した。Bについては当施設の中に、絵本や紙芝居、折り紙、ブロック、人形など様々な年齢にあった保育用具をそろえ、不足の時には保育園の用具をかり、楽しく過ごせるようにした。
4.保護者への支援
帰りに、「看護保育日誌」のコピーを手渡し、利用者の病状と、生活の様子を伝え、今後の医療機関への受診の必要性や家庭での看護の方法について、保護者にアドバイスをした。次回利用時に家庭での病状を伝えてもらうために図10に示した「家庭での様子」を渡した。 保護者の多くは「看護保育日誌」で、一日の様子がよくわかると喜んだ。
W.考察
当施設では、広報活動はほとんど行っていないが、開設以来利用者は口コミのみで年々増加し、H14年度からは初年度の2倍近くとなった。米子市以外の5町村でも住民から当施設を利用したいとの強い要望があり、契約することに至った。この様な状況は病児保育の必要性が大きいことを示している。利用世帯の家族構成をみると、祖父や祖母が同居している家庭も少なくない。祖父母にも就労や介護などの事情があり、核家族のみが病児保育を必要とするわけではないようである。
利用者の疾患は多くが急性の感染症で、1回の病気での引き続きの利用期間は平均1.45日と短かった。一方、7年間の利用は1人平均9.49日に及び、病気になる度に繰り返し利用している利用者が多いと考えられる。一般に、保育園や幼稚園に通園をし始めた時期は、初めての集団生活により、感染症に罹患することが急に増えることが多い。子どもによっては、頻繁に休園する状態になる。そのような場合でも、2〜3年すると、多くの感染症に免疫ができ休園する頻度が減ることが多い。今回の検討でも、初年度以降も利用があった利用者の年度当たり平均利用日数の経過をみると、1年目、2年目に比べ、3年目以後は利用日数は明らかに減り、集団生活を始めた子どもたちの経過を表していた。利用者の年齢は1歳が最も多く、利用開始年齢も1歳が最も多かった事は、育児休暇後の保育園に通園を開始した時期に一致する。この通園を開始し感染症に頻繁に罹患する時期に、子育てと仕事の両立に悩む家庭は多い。この時期の子どもたちが健やかに育つために、病児保育が果たす役割は大きいと考える。もちろん、子育てと仕事の両立のための方法は病児保育がすべてではない。看護休暇など保護者が子どもが病気の時に休むことができるようにすることがまず重要である。しかし、看護休暇があったとしても、頻繁に子どもが病気に罹るときには毎回休暇を必ず取ることは難しい。責任を持って仕事をしている以上休めない場合も多々ある。そのために、保護者が休めない時の支援策の一つとして、病児保育は必要と考える。
一方、病児保育は、病気の子どもを預かるだけでなく、もう一つの役割がある。病気からの回復を手助けしていくために看護をし、それを家族に伝えていく役割である。病児保育は専門職の職員が少人数の利用者の看護と保育に専念する。看護目標を持ち、それに沿って看護をおこなうと、利用者が病気から回復する大きな手助けとなる。その上、病児保育での看護を家庭での看護につないでいくことができる。当施設では「看護保育日誌」「家庭での様子」を活用し、保護者と話し合うことで、家庭への看護の橋渡しをするように心がけてきた。7年間の経験の中で、多くの利用者の保護者から、「当施設を利用すると早く回復するようだ」「薬ののませ方がわかった」「下痢や嘔吐の時の調理の仕方がわかった」などの声を聞いてきた事は、前述したような子どもの看護を支援していく役割が果たせている結果と考える。
以上のように、病児保育は必要性の大きい施設であるが、実施施設がなかなか増えない理由の一つに、利用者の変動が大きいことによる運営の困難さがある。今回の結果でも利用者数の変動の大きさが示された。月別延べ人数でみると、初年度以外の各年度とも、7月、8月の夏期が少なく、12月から3月の冬期が多い結果となり、多い月は最も少ない月の約3倍になった。この季節的変動は、小児科外来でみられる感染症の流行と一致している。利用者の疾患の大半が感染症であるので、この変動の大きさは当然で、今後も同様の傾向が続くと考える。利用者数の変動に伴い、日毎に職員が不足したり、余剰になったりするために、運営が難しくなる。当施設では、保育園、小児科医院からの職員の応援があり、日毎の対応が可能であった。日常的に互いに連携をしているので、常勤の職員同様の看護が可能であった。病児保育施設は運営形態から、医療機関併設型、乳児院型、単独型、保育所型、にタイプ分けされているように3 )、運営主体は多様であり、それぞれの事情が異なるため、当施設のような他施設との連携が可能であるとは限らない。しかし、利用者数の変動に対処するためには、他施設との連携は一つの有用な方法である。内容的にも他施設との連携は有用である。医療の面からは医療施設との連携が不可欠である。利用者が安心し、楽しく一日を過ごすためには保育の知識、設備も重要であり、保育施設との連携が必用となってくる。調理の面でも、他の施設と連携をとる場合は運営しやすく利点が多い。病児保育の職員が調理を行うと、その間看護から手を離れる。利用者がお弁当を持参すると、温かい食事ができないし、食事がすすまない場合に臨機応変に対応できない。子どもの食事の調理に慣れている施設との連携があると、職員が手をとられる事なくより良い内容の食事を提供できる。医療、保育、調理それぞれの観点で他施設との連携をどのように取っていくかが、病児保育を運営する上で、重要な点となるだろう。
病児保育に対する一般的な認識の低さも、実施施設が増えない理由の一つに挙げられる。「病気の時くらい親がみるべき」という病児保育を批判する意見も少なくない。当施設を利用する保護者も、最初は病児保育の内容への不安や、病気の子どもを預ける事へのためらいを持っていたが、利用を始めると繰り返し利用する保護者が多かった。病児保育の現状や、子どもの看護を支援していく役割を持つことを公表していくことが、病児保育に対する認識を拡げていく上で重要であると考える。病児保育は昭和41年にナオミ保育室内の「バンビ」が開設され、その後昭和44年に「枚方病児保育室」と続き次第に全国に広がっていった歴史がある4 )。「病児保育」の名称は、その歴史の中で使用され親しまれてきたが、現在、病児保育には様々な運営形態の施設が存在し、運営主体によって施設の実態にちがいが見られるようになり、「病児保育」の名称一つで表現することが難しくなってきている。医療機関併設型で主に急性期の病児を利用対象とすると、看護中心の実態となる。保育所併設型で、回復期の病後児を対象とすると、保育中心の実態となる。急性期の疾患の利用ができる「病児保育」と回復期の疾患のみ利用できる「病後児保育」の分け方もあるが、各施設の実態を的確に表現できない。それぞれの実態を表す名称があれば、より的確に施設の性格が伝わり、病児保育に対する認識もより的確になるのではないだろうか。実態毎に分けて考える事は、それぞれの問題点と今後の課題を検討していく上でも役立つ。以上の考えから、当施設では子どもの看護を支援していく役割を示す「病児看護センター」の名称を「病児保育」に並べ使用する予定である。
X.終わりに
体調が良くないまま登園し、夕方ぐったりして受診する子どもを小児科医療の現場でずいぶんみてきた。多くの保護者が休むに休めず、困り果てて取った行動の結果であった。このような事がないように、保護者が仕事をしている日も、体調が早く回復するように子どもを適切に看護し、家庭に橋渡しをしていくことが病児保育(病児看護センター)の役割であると考える。
本論文の一部は第15回日本小児科医会セミナー、及び第14回全国病児保育研究大会で報告した。
文献
1)2004年 保育白書.全国保育団体連絡会.2004:195.
2)帆足英一、向田隆通、病児保育の発展に向けて−今後の課題、帆足英一監.新・病児保育マニュアル.初.、大分:全国病児保育協議会.2000:131-138.
3)帆足英一、病児保育の実態、帆足英一監.新・病児保育マニュアル.初.、大分:全国病児保育協議会.2000:14-36.
4)保坂智子、病児保育の歴史、帆足英一監.新・病児保育マニュアル.初.、大分:全国病児保育協議会.2000:8-13.
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