「小児保健研究」2006年65巻第4号掲載

病児保育の必要性と課題−保護者へのアンケート調査より−

谷本弘子、 谷本 要

T.はじめに

病児保育は「乳幼児健康支援一時預かり事業」として全国各地で展開されつつあるが、まだ充分に需要をみたしていない状態である1)。他の子育て支援策と比べると、その存在と役割も未だに充分には認知されているとは言えない。病気の子どもを預けることに、不安を抱く意見もよく耳にする。そこで、病児看護センターベアーズデイサービス(平成9年開設の病児保育施設、平成16年に改称)2)の利用者にアンケート調査をおこない、病児保育の必要性とその課題について考察した。

U.対象と方法

平成9年4月の開設から平成16年12月末までの期間に病児看護センターベアーズデイサービス(以下当施設)を利用した家庭にアンケート用紙(表1,2)を郵送した。複数の兄弟が利用している家庭では、調査用紙は1通のみ郵送した。質問項目は保護者の背景および病児保育を利用した理由、病児保育を利用する事への不安の有無、病児保育を利用した感想などで構成した。用紙の回収は無記名で、返信用封筒での郵送でおこなった。

V.結果

1.回答率

調査期間に当施設を利用し、現在の連絡先が判明している家庭は436あり、そのうち203の家庭から回答があった(回収率46.6%)。

2.保護者及び家庭の背景と当施設を利用した理由(質問項目1〜8)

保護者の職種の構成を 表3に、勤務先の規模を表4に示す。保護者の勤務先の育児休暇と看護休暇の現状を表5に示す。表3〜5の%は記載無しを除外し、それぞれの質問に回答があった総数を100%として計算した。

保護者以外の同居あるいは近くに住む家族の有無では「有」が131人(64.5%)、「無」が71人(35.0%)、記載無しが1人(0.5%)で、「有」の家庭に子どもが病気になった時のその家族の協力をたずねると、29.3%が「大体いつも」、46.6%が「時々」、21.8%が「ほとんど協力してもらえない」と答えた。当施設を利用した子どもの家庭内の人数は「1人」が116人(57.1%)、「2人」が67人(33.0%)、「3人」が17人(8.4%)、「4人」が2人(1.0%)、記載無しが1人(0.5%)であった。

連続しての利用を1回と数えたときに、これまでの当施設の利用が1回のみの家庭が(複数の兄弟の利用を含めて)30家庭(14.8%)あった。30家庭に2回以上利用しなかった理由をたずねた結果では「病児保育を利用する必要がなくなった」が20人、「転居のため」が2人、「初回の利用で不満を持ったため」が7人(金額が高いが4人、時間帯が合わないが2人、遠いが1人)、「その他」が1人であった。

当施設を利用した理由を訊ねた結果を表6に示す。

3.病児保育を利用する事への不安の有無(質問項目9、10)

利用する以前に病児保育を利用することに不安を持っていたかどうかの質問では「持っていた」が64人(31.5%)、「持っていなかった」が124人(61.1%)、「どちらともいえない」が14人(6.9%)、記載無しが1人(0.5%)の結果であった。利用後の不安の有無では、「不安が有る」が8人(3.9%)、「不安がない」が186人(91.6%)、「どちらともいえない」が4人(2.0%)、記載無しが5人(2.5%)となった。利用前後の不安の理由とその人数を表7に示す。

4.当施設を利用した感想(質問項目11〜18)

当施設を利用した子どもの様子を訊ねた結果を表8に、帰宅時のスタッフによる利用者の様子や病状についての説明に関しての質問の結果を表9に示す。当施設では利用者それぞれの看護保育日誌のコピーを帰宅時の説明の際に保護者に手渡している。看護保育日誌のコピーを手渡す事について訊ねた結果を表10に示す。

一日の利用料(2500円)についての質問の結果を表11に示す。開所時間(午前8時30分)と閉所時間(月〜金曜日は午後5時30分、土曜日は午後3時)についての質問の結果を表12に示す。

当施設は子育ての手助けとなっているでしょうかの質問の結果では表13のように「なっている」が196人(96.6%)、「なっていない」が1人(0.5%)、「どちらともいえない」が2人(1.0%)、「わからない」が4人(2.0%)であり、「なっていない」と答えた人の理由は「時間が勤務と合わない」であった。「なっている」と答えた人の理由を表14に示す。

W.考察

1.保護者の背景及び当施設を利用した理由

今回の調査では、保護者の多くは規模が小さい勤務先に勤めていた。当施設の地域的な要因があると考えられる。勤務先の規模が小さいことも影響すると思われるが、勤務先で看護休暇や育児休暇が取りやすいと答える保護者数は少なかった。当施設を利用した理由を見ても、勤務先で看護のための休暇を取れない、取りにくい事が多く、勤務先での休暇の問題が大きいと考えられる。今後看護休暇が整備される職場が増えていっても、現実に多くの保護者が看護のための休暇を取りやすくなるのにはまだ時間がかかると考えられる。

休暇を取る問題だけではなく、「どうしてもその日にしないといけない内容の仕事があった」と仕事上の責任を挙げた家庭も少なくなかった。仕事上の責任を考えると、子どもが病気になったときの対応として、看護休暇の整備だけでは解決できない。そのため、保護者の就労を支えていくためには、看護休暇の整備はもちろん進めていく必要があるが、それと同時に病児保育などの病気の子どもを預かるための支援策の整備も続ける必要がある。

家族の病気や仕事以外の都合を当施設を利用した理由に挙げる家庭もあった。当施設は保護者の就労の有無を問わずに利用できる。実際の例として、保護者や兄弟の病気、兄弟の幼稚園の行事、冠婚葬祭、引っ越しなどといった就労していない母親の利用も少なからずある。病児保育は保護者の就労の有無にかかわらず、必要とするすべての家庭への支援をおこなうべきである。

2.病児保育に対する不安の有無

利用前に不安を持っていなかった人が124人(61.1%)と半数以上を占めた。これは当施設は小児科医院、保育園両方に隣接し施設の概要を利用前から把握している人が多かったためと考えられる。利用前に不安を持っていた人は64人(31.5%)あったが、利用後には8人(3.9%)に減った。利用後には186人(91.6%)と大多数の人が不安を持っていないと答えた。病児保育への不安の多くは、実際の内容を知ることで解消すると考える。利用前に最も多い不安は「子どもが知らないところで慣れないのでは」という不安であったが、スタッフが少人数の利用者につきっきりで一日過ごすことで、多くの場合すぐに慣れるようである。「他の子どもの病気が移るのではないか」という不安は、当施設が4つの独立した部屋を使用し、利用者相互の感染がおこらないように部屋割をしていることを理解すると、解消される。「きちんと看護してくれるか」「食事や水分がとれるだろうか」の不安は、迎えにきたときに一日の利用者の病状や様子の説明を聞くことで解消されるようである。「病気の子どもを預けるのは悪いことではないか」という不安は2番目に多い不安であった。「病気の時に親がそばにいないことで子どもに悪い影響があるのではないか」という不安も次に多かった。当施設は利用者が病気から早く回復する助けになるように看護をし、その看護が帰宅後の家庭での看護に橋渡しができるように、保護者への連絡に力を入れている。このために、保護者も子どもの看護を自分たちもおこなっているという自覚ができ、前述した2つの不安は解消されると考える。

3.当施設利用後の感想

利用した子どもの大半が楽しく過ごせていたが、つまらなかった、淋しかったとの答えも若干あった。病気による気分の悪さがあり、活動が制約される面があるが、利用者が早く回復していくためには、心理的に安定する必要があり、全利用者がつまらないとか淋しいとかの思いをしないように今後さらに検討すべきである。

帰宅時に行う一日の様子の説明はほとんどの家庭が「よくわかった」と答えた。また、「看護保育日誌」のコピーを一部手渡すことは子どもの様子や病状を理解するのに役立っているとの答えが多かった。当施設から帰宅するときに利用者の看護は終わるのではなく、帰宅後には家庭での保護者による看護が始まる。看護を家庭に橋渡しするために帰宅時の説明と看護保育日誌のコピーを手渡すことは役に立っていると考える。

利用料、開所時間、閉所時間について、不満を持つ人がかなりあった。時間帯については、当施設は急性期の病児の利用が多いので、常勤のスタッフによる受け入れが可能でしかも医療機関との連携が取れる時間帯を考えて現在の状況に設定している。このように利用者の病気への対処が十分にでき、安全に利用できるためには、ある程度の時間設定を設けなくてはならない。また、利用後の治療や看護につなげていくためには、ある程度のところで、時間の区切りを設けなければならず、場合によっては、閉所時間以前に医療機関を受診することをすすめる必要もある。なるべく多くの家庭の要望に応えていくために、今後も時間帯については検討をするべきと考えるが、保護者が仕事を続けていくための手助けと、利用者が回復するための手助けと、どちらも果たせるように、個々の利用者の状況に応じた最善の方法をその都度考えていく必要がある。また、病児保育だけではなく子どもが病気の際の時間差出勤や短時間労働を認める職場の環境整備や、ファミリーサポートセンター、ベビーシッターなど他の子育て支援策と組み合わせる事で、より多くの家庭への手助けとなり得ると考える。

当施設は子育ての手助けとなっているかについては、保護者の大部分がなっていると答えた。内容としては勤務を続ける事への手助けとなっているとの答えが最も多かった。もともと勤務を続けるために当施設を利用する家庭が多いので、勤務を続けるための手助けとなっているとの答えが多いことは当然と考えられる。「看護をすることにより早く回復する」、「看護の方法を学べる」、「病気について説明が聞ける」など看護や病気の説明に関する事を手助けの内容に挙げた家庭も少なくなかった。このような内容は利用する以前には期待していなかったが、利用することで、保護者が理解したと考えられる。これは、単に保護者の代わりに利用者を預かるだけではなく、利用者を看護し、その看護を家庭に橋渡しをしていく、つまり家庭での看護を支える事を施設の役割として運営してきた成果と考え、今後もこのような役割を果たすために運営方法を検討していく必要がある。

以上、病児保育利用者のアンケート調査から病児保育の必要性を再認識し、保護者の就労など生活を支える役割とともに、家庭での看護を支える役割を持つことを考察した。家庭での看護を支える役割を果たしていくためには、病気の子どもの看護と保育に専門性を持ち、それを家庭にどのように橋渡しをしていくかについて、今後も運営内容の検討を続けていく必要があると考える。

本論文の一部は第15回全国病児保育研究大会、及び第52回日本小児保健学会で報告した。

文献
1)保坂智子、病児保育の歴史、帆足英一監.必携 新・病児保育マニュアル.大分:全国病児保育協議会.2005:15-30.
2)谷本弘子、谷本要.ベアーズデイサービスセンター(病児保育)の7年間の検討−病児保育の問題点について−.小児保健研究2005:328-335

図表一覧
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