「小児保健研究」2006年65巻第2号掲載

放課後児童健全育成事業の課題−保護者へのアンケート調査から−

谷本弘子、 谷本要 

T.はじめに

働きながら子どもを育てる家庭にとって、放課後や学校休業日に小学生の子どもがどのように過ごすかは大きな問題である。子どもたちにとっても、放課後や学校休業日に元気にのびのびと過ごすことができる安全な環境は不可欠である。学童保育、放課後児童クラブなど放課後児童健全育成事業が国の施策として推進されつつあるが、地域によっては未だ施設数は不足している。学童保育、放課後クラブなどは戦後まもなくから必要に迫られ様々な運営形態で行われてきた経緯があり、1998年に放課後児童健全育成事業として法制化された後も運営形態、運営内容にはそれぞれの施設で大きな違いがある1)。下校時に保護者が家庭に不在の子どもたちに安全な活動の場所を保証するためには、今後は放課後健全育成事業の施設数を増やすとともに運営内容の検討が必要となってくる。そこで、放課後児童健全育成事業のニーズを調べ、今後の課題の検討をするためにアンケート調査をおこなった。

U.対象と方法

2003年9月にA市内の小学校1,2学年に在籍している全児童2756人の家庭の保護者にアンケート調査をおこなった。A市教育委員会、各小学校の了解を得、学校を通じて、配布、回収をおこなった。A市では市が運営する放課後児童クラブが小学校の校区毎に設置されつつあり、調査の時点では全23校区中15校区で設置され、8校区で設置されていなかった。放課後児童クラブの定員はすべて40名で、小学校1〜3年生を対象としていた。1校区では児童館を使用し、残りの14校区では学校の空き教室を使用して運営されていた。閉所時間は午後5時、ただし、冬季は日没までに帰宅できるように午後5時よりも早い時間とされていた。夏休み以外の学校休業日および土曜日、日曜日は開設されていなかった。放課後児童クラブに関しては、調査時に一般的であった「学童保育」の名称を使用した。

家庭状況については全員に共通の質問をおこなった。同居している家族の人数、兄弟の数、兄弟の何番目か、同居している両親及び祖父母それぞれの就業の有無、子どもが下校する時に大人の家族の在宅の有無について質問した。

学童保育に関しては校区に設置している学校としていない学校毎の質問内容とした。設置している校区では、学童保育に入っている家庭と入っていない家庭に分けて質問をした。学童保育に入っていない家庭には入っていない理由を最初から利用を考えなかった家庭と最初は利用を考えたが現在は利用していない家庭に分けて、複数回答可能で選択肢を設けて訊ねた。学童保育に入っている家庭には以下の質問をした。@閉所時間が適切かどうかA土曜日の開設の希望B春休みと冬休みの開設の希望の質問C校区毎に1つの設置で良いか、良くない場合は校区外も利用できた方が良いかD活動内容の希望。@からCは二者択一で訊ねた。Dは選択肢を設けて複数回答可能で訊ねた。さらに@の閉所時間が適切でない家庭には希望の閉所時間を、Aの土曜日の開設の希望がある家庭には開所時間と閉所時間をそれぞれ選択肢を設けて訊ねた。学童保育が設置されていない校区では、学童保育が必要な家庭と必要でない家庭に分け、必要な家庭に@閉所時間の希望A土曜日の開設の希望B春休み冬休みの開設の希望C校区毎に1つの設置で良いか、良くなければ、校区外も利用できた方が良いかを質問した。@は選択肢を設け、他は二者択一で質問をした。

V.結果

1.回答数と回収率
学童保育設置校区の対象児童数は2260人で、そのうち1842人の家庭から回答を得た(回収率81.5%)。未設置校区の対象児童数は496人で、394人の家庭から回答を得た(回収率79.44%)。全体でみると2236人の家庭から回答を得、回収率は81.1%であった。

2.家庭状況

同居している家族の人数は4人(34.01%)が最も多く、5人(24.94%)、6人(14.85%)と続いた。家族構成は両親と子どもの核家族が58.69%と最も多く、3世代家族は33.62%、1人親世帯は7.69%であった。兄弟の数は2人(51.97%)が最も多く、3人(28.60%)、1人(14.64%)と続いた。47.93%が兄弟の1番目で、2番目の子が37.68%であった。父親の就業率は99.74%であった。母親の就業率は73.62%、祖父の就業率は64.55%、祖母の就業率は53.20%であった。
501人(22.66%)の家庭で下校時に家族が家にいないと答えた(表1)。

3.学童保育設置校区での集計

A市の学童保育が設置されている校区での集計では、435人(23.93%)の家庭で、子どもの下校時に家族が家にいないと答えた(表1)。学童保育に入っている家庭は344人(18.68%)であった(表2)。

@.学童保育を利用していない家庭

最初から学童保育の利用を考えなかった家庭にその理由を聞いた結果を表3に、最初は利用を考えたけれども現在は利用していない家庭にその理由を聞いた結果を表4に示した。

A.学童保育を利用している家庭

現在の閉所時間は適切かどうかの質問の結果を表5に示した。233人(70.39%)の家庭が適切と答え、98人(29.61%)の家庭が適切でないと答えた。適切でないと答えた家庭の希望の閉所時間は4.08%が午後5時、81.63%が午後6時、14.29%が午後7時であった。土曜日の開設は169人、51.21%がを希望した(表6)。土曜日の開設を希望した家庭の開所時間、閉所時間の希望は表7に示したようになった。冬休み、春休みの開設 は296人(89.43%)が希望した(表8)。校区と学童保育についての質問ではそれぞれの校区に学童保育が一つで良いとするのが270人、校区に一つでない方が良いというのが66人であった(表9)。校区に一つでない方が良いという中で、32人が校区外の学童保育も利用できた方が良いと答えた。活動内容の希望を表10に示した。

4.学童保育未設置校区での集計

学童保育未設置校区での集計では、下校時に家族が家にいる家庭が327人(83.21%)、いない家庭が66人(16.79%)であった(表1)。あなたの家庭にとって学童保育を必要としますかという質問には172人(43.65%)がはいと答え、222人(56.35%)がいいえと答えた(表11)。

@.学童保育が必要な家庭

閉所時間の希望は午後4時が2人(1.27%)、午後5時が75人(47.47%)、午後6時が68人(43.04%)、午後7時が11人(6.96%)、午後8時が2人(1.27%)であった。土曜日の開設は121人(72.46%)が希望した。春休み、冬休みの開設は168人(94.64%)が希望した。校区に一つで良いかの質問では99人(60%)がよいと答え、66人(40%)が一つでない方が良いと答えた。校区に一つでない方が良いと答えた人のうち、49人(71.01%)の人が校区外の学童保育も利用できた方が良いと答えた(表12)。

W.考察

1.家庭状況

核家族が過半数を占めた。対象となった子どもの大半が兄弟の1番目か2番目であった。母親の就業率は73.62%と学童を持つ家庭の全国平均より高かった2)。祖父、祖母の就業率とも50%を越え、祖父母が同居していても必ずしも下校時に家にいるとは限らないようであった。501人(22.66%)の家庭で、子どもの下校時に家族が家にいないと答えた。下校時に家族が家にいない家庭のすべてではないが、その中の相当数の家庭にとっては、学童保育など放課後に利用できるなんらかの施設が必要であると考えられる。また、現在学童保育を利用していない理由に「家族が仕事をやめた」と答えている人がいることや、学童保育未設置の校区で「下校時に家族が家にいない」という答え以上に「自分の家庭にとって学童保育は必要だ」と答えた人がいることより、下校時に家族が家にいない家庭以外にも学童保育を必要としている家庭が存在すると考えられる。

2.十分にニーズを満たされていない家庭

調査結果から、以下に示したような十分にニーズを満たされていない家庭の存在が推察された。

@.学童保育を設置していない校区の家庭

学童保育を校区毎に設置していくと、未設置の校区の家庭では学童保育が必要であっても利用できない状態であった。すべての校区の希望者が学童保育を利用することが可能になるようにするためには、施設数を増やす、あるいは校区毎のみの利用でなく複数の校区で学童保育を利用できるようにするなどの措置が必要であると考える。

A.内容により利用できない家庭

閉所時間が早すぎる、土曜日や長期休業日に開設されていない、定員を超えていたなどの理由で学童保育を利用できる校区であっても利用することができない家庭がある事が示された。保護者の勤務の実態に即した開設時間や開設日の検討が必要である。閉所時間を遅くすると、日没後に帰宅する場合が生じてくるが、一定の時間を過ぎれば、保護者が迎えに来るようにするなどの方法をとることで解決できる。定員については、学校の生徒数がぞれそれ異なるため、学校毎の希望者数に応じた定員数を設定することや、校区を越えて利用できるなどの方策が必要である。活動内容に不満を持ち、利用しない家庭もあった。学童保育は子どもたちが自主的に活動する場であることを基本に考え、子どもたちが元気にいきいきと様々な活動を行っていくことを援助していく活動内容を検討する必要がある。

B.現在学童保育を利用をしているが、改善の希望をを持つ家庭

現在学童保育を利用している家庭でも、閉所時間や開設日など種々の改善の希望を持っていると考えられた。閉所時間については改善の希望を持つ家庭の大半が午後6時を希望した。土曜日については半数の家庭が開設を希望した。そのうちの半数が午前8時の開所を希望した。土曜日の閉所時間の希望は午後5時以降が約80%を占めた。冬休み、春休みの開設は約90%と多くの家庭が希望した。以上のような希望は、子どもが安全に過ごすために保護者の勤務の実態に即した開設日、開設時間を希望している結果と考えられる。活動内容については、希望する内容として、「宿題」が最も多かったが、「スポーツ」が次に多い希望数であった。「室外遊び」「室内遊び」もそれぞれ相当数あった。多彩な活動を行う場所であることを期待している家庭が多いと考える。学童保育は、指導員に見守られる中で、子どもが友達と交わりながら、自主的に活動できる場所である。運営方法を検討していけば、様々な活動が可能となってくると考える。

3.検討すべき課題

以上のように、今回の調査の結果からは充分にニーズを満たされていない家庭が存在することが示唆された。放課後健全育成事業の果たす役割は保護者が就労などで下校時に家庭にいない子どもたちが安全に自主的に活動する環境を確保することである。この役割を充分に果たすためには、施設数、定員数など量的な検討とともに、開設時間、開設日、活動内容などの質的な検討を行っていかなければならない。

X.終わりに

施設数を増やすとともに運営内容を充分に検討をして、希望する家庭の子ども達がすべて利用できるような放課後健全育成事業の実施が必要と考える。

文献
1)施設と運営、新版学童保育のハンドブック.全国学童保育連絡協議会.2004:83−100.
2)日本子ども資料年鑑2005.社会福祉法人 恩寵財団母子愛育会 日本子ども家庭総合研究所.2005:85.

図表一覧
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